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Projets de Recherches sur l'Historiographie des Faits Littéraires

文芸事象の歴史研究会

​経歴・方法

 文芸事象の歴史研究会は2009年の創設以来,企画により構成メンバーとテーマを変えながら継続的な活動を展開しています.

 企画者の研究領域の関係で,従来はマザリナード,パスカル等17世紀フランス語文学とその歴史記述に関わる企画が多かったのですが,研究対象については特に制約はありません.参加者の研究領域を尊重しつつ,記述とテクストの歴史性について討議し,成果をシンポジウムの開催や書籍の刊行によって一般に公開しています.

活動概要

2009年

クリスチアン・ジュオー招聘

小冊子の刊行

シンポジウム「MAZARINADES フランス十七世紀の政治/文学表現」

シンポジウム「歴史学と文学の対話 −クリスチアン・ジュオーと共に」

2011年

クリスチアン・ジュオー『歴史とエクリチュール 過去の記述』刊行

2012年

クリスチアン・ジュオー『マザリナード』刊行

2013年

クリスチアン・ジュオー,ダイナ・リバール,ニコラ・シャピラ招聘

小冊子の刊行

シンポジウム「文学・証言・生表象 文学研究と歴史記述研究の対話」

シンポジウム「書物による歴史」

2015年

連続公開研究会「表象のパスカル パスカル学への新たな寄与の試み」

2017年

『GRIHL 文学の使い方をめぐる日仏の対話』刊行

アラン・カンチオン招聘

講演会「パスカル学の現在」

クリスチアン・ジュオー,ダイナ・リバール,ニコラ・シャピラ,ジュディット・リオン−カン招聘

シンポジウム「文芸事象と権威−権力」

2021年

『GRIHL II 文学に働く力,文学が発する力』刊行

日本フランス語フランス文学会2021年秋季大会におけるワークショップ« Témoignages de littérature »

シンポジウム「文学に働く力,文学が発する力 権威・検閲・文学場」

2022年〜

​定期的な研究会の継続

問題意識・方法論

虚構文学の歴史理論の構築をめざして

1.記述とはすべて生産物であり虚構である

 すべての記述は生産物であり,その意味ですべては虚構である.記述内容の真偽は,原理上判定不可能である.したがって記述内容が歴史ではなく,記述が構築されるそのやり方と機能にこそ歴史性が刻み込まれる.レチフの描く農村は当時の農村ではないし,ネミロフスキの描写が正確かどうかを確認する手段はない.他のテクストと突き合わせても事例を幾ら増やしても,記述の不確定性に揺るぎはない.作家はどのように社会世界を構築し表象するのか,読者はそれをどのように信じ受け入れ,如何なる社会世界を想い描くのか.これらを分析対象として初めて,虚構である文学=記述から歴史性を抽出できるのである.記述とは描写ではなく,過去を保存する媒体でもない.記述は構築であり働きかけなのである.

 

2.文学とはそれ自体歴史であり歴史記述である

 記述=虚構の前提に立つなら,虚構を前提に読まれる文学も真実を標榜する歴史書も,すべては記述であり虚構性を免れない.そこで文学とは歴史であり,歴史を形成する歴史記述である.また歴史記述とはそれ自体文学であり,文学として読まれるとき,歴史記述は歴史を形成する.

 

3.文学を用いずに歴史記述はできない

 歴史記述に文学を用いるという慣習(文学を用いないでは,或る時代の歴史を想像しえない状況)は,それ自体は19世紀前半の社会的構築物としても,現代にいたるまで拘束力を持つ慣習である.そのことから二つの方向性が考えられる(既に,文学=記述を用いないという選択肢は存在しえない).第1に文学の効用,使い道(どのように用いるのか)を検討する必要がある.第2に文学による社会世界の形成(どのように用いられているのか)を探らねばならない.それは文学,あるいは「文学」のとみなされる作品が,当該社会世界の中でどのような位置を占めるのかについて,他の言説と突き合わせて思考することを意味する.

 

4.文学という言説と表象の形成

 文学=記述は総体としての言説の一部をなし,言説が認識と表象を形成する.すなわち,表象の形成に迫ろうとするなら,必然的に文学とそれを媒介するメディアの働きに注目する必要がある.或る社会世界に固有とはいわないまでも,少なくとも支配的なメディアを無視しては,文学の形成する社会世界の総体としての表象にも,個人の認識にも辿り着くことができない.文学研究は書物などの媒体,媒介機能をはたす宣伝媒体,テクストの支持媒体とみなされるジャンルも合わせて問題としなければならない.言表は言表行為と切り離しては分析できない.ボシュエの王への説教は,神学というジャンルを前提にしつつも,政治権力の中枢に取り込まれて絶対王政のイデオロギーとして機能するし,編集され出版されることで,「文学」という別のジャンルで異なる機能を果たすことになる.こうして形成される文学の価値と伝統に無関心であることはできない.

 

5.文学の価値

 文学における審美的な価値判断と心理的解釈は,或る社会世界の産物に他ならない.但し,そうした価値判断を無視するどころか,それを可能とする構築原理を見据えつつ,「価値」を付与せねばならない.文学史,歴史,哲学史等の「史」を構築する規範と脱規範,内部と外部,ジャンルが成立する際の人為性に眼をむけ,そうした構築を許した文学=記述実践に過去を与えてやる必要がある.

 

6.現代の批評理論は読むための道具ではなく,常に既に解読格子に組み込まれている概念の総体である

 現代の批評理論が提供する概念を適用してテクストを読めば,時代錯誤の弊は免れない.批評理論を構成する概念は現代の表象の構成要素であり,われわれの解読格子の一つに他ならない.したがって,概念そのものの是非と機能を検討しつつ,テクストに向き合わねばならない.そのように再構築された過去は,われわれの解読格子と概念の有効性を,逆に照らし出してくれる.

(『GRIHL 文学の使い方をめぐる日仏の対話』(吉田書店)より)

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