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特別企画:フランク・ロデ氏による講演

 去る1月19日,岡山市内でフランス語学校を主催されているフランク・ロデ氏が来て講演をしてくださいました.「私には秘密はありません」とは,質疑応答の中でのロデ氏による断言.参加者全員,ロデ氏の興味深いお話,魅力的で物腰の柔らかな話し方,ユーモアを交えた受け答えに魅了され,とにかくなんでもかんでも聞いてみることに.時には「日本人女性についてどう思いますか」とか,奥様(日本人)の「ご両親に結婚の申し込みにいった時はどうでしたか」なんて,かなり突っ込んだ個人的な質問ばかりか,「プロポーズの言葉は?」などという,突っ込みだろ!というような不躾な,好奇心丸出しの質問まで飛び交いましたが,そんな質問にも.ロデ氏は気分を害するでもなく,にこやかにそして面白おかしく答えてくださいました.

 講演の全容を御伝えすることはできませんが,例えば,こんなお話がありました.まずは日本への憧れ.(高橋留美子作)『めぞん一刻』が大好きで,日本への興味を抱いたこと.『めぞん一刻』なんてマンガ,もう今の人達は知らないでしょうねぇ,と会場に聞いていました.案の定,誰も知りません.でも,ロデ氏のお話が興味深いのはここから.初めての日本への関心がマンガや柔道というのはよくあることですが,ロデ氏はこの漫画もさることながら,その漫画で描かれていたぼろぼろのアパート,一風変わった住人,集住のありかたなどに注目したそうです.後に神戸に留学した際に,そんな日本の住居や学生生活,隣人との距離感について,漫画で得た知識を御自身で確認されたはずです.もちろん,フィクションのとおりであったとか,そうではなかったというのではなく,漫画を通して関心を抱き,その知識を踏まえながら現地で確認をし,観察するということでしょう.いわば,書物の知識と個人的な「経験」を丁寧に振り返ってくださっているわけです.経験が「個人的」であればあるほど,他の人には追体験の難しい,したがって親近感の抱き難い経験となるはずです.ところがロデ氏の経験談は居合わせた全員を魅了してしまいます.なぜでしょうか.それはお話の巧みさ,レトリックもさることながら,氏の誠実な人柄と,背伸びせずに,忠実に自身の興味に従い,暮らしてゆくその姿勢にあるのではないでしょうか.この点,お話に出て来た別の例を用いて,もう少し敷衍してみましょう.

 ロデ氏はまた,旅行が好きで色々な場所に実際に行かれたこと,デンマークでややしばらく暮らしたこと,また,様々な職業を試したことなどお話されていました.電車の車掌などの経験もあるそうです.旅行と多彩な職歴?一見したところこの二つが結びつくことはないのですが,実はここに一つの共通点があるようです.それは自分の関心に忠実であること,とにかくやってみること,成り行きに任せるのでも何かに流されるのでもなく,自身で選択しつつ,実際に経験として積み上げてゆくことです.驚いたのは,こうすればよかった,あのときこうだったら…といった,いわば後悔を示すような発言は一つもなかったことです.それは,おそらく,御自身の選択,その結果としての経験,自身をめぐる今の現状に満足されているからではないでしょうか.

 この「満足」という言葉に関しては,お話の中でもう一つ大変印象深い使い方をされていました.今,ロデ氏は語学学校を経営されているわけですが,経営者であり教師である自分にとって一番重要なことは「生徒が満足すること」だそうです.1年経っても2年経っても10年経っても「Bonjour」しか言えないようでは生徒さんは学習意欲を失くしてしまいます.もちろん満足せず,学習も止めてしまいます.ですから,会話,旅行,文法,読書などそれぞれの生徒さんのニーズに合わせた授業をするばかりではなく,必ず「上達」させるように指導されているそうです.そうでなければ,受講生が満足することはありえないのです.中学,高校,大学など,お勉強する場所でお勉強するのは当たり前で,それは結構辛いこと,努力が必要なことと思っている学生さんいませんか?そりゃ,辞書を引くのは面倒で,フランス語を話せるようになるには時間を使わなくちゃいけなくて(時にはお金も),勉強している時間は疲れるし,バイトできないし,音楽が聴けなくて,友だちとも遊べない.でも学校にいるんだからしょうがないや,と思っている人いませんか? ロデ氏がいう「満足」とは,できるようになることに対する喜びや達成感です.そんな喜びや達成感,いわば「満足感」を持つためには,それに必要なことをすることが大切です.それに必要なことをするためには,自分の関心に忠実でなければ続きません.だって,面白くもないことをやっていたって続かないし,喜びはないし,仮に達成感があったとしても「満足感」はないでしょう?

 お話を聞きながら,つらつらとそんなことを考えていると,ロデ氏の今は,生徒さんにしてあげたいこと(=満足感を抱いてもらう)を御自身に忠実に実現してこられた結果なのではないかなと思えました.

 とかく大学生時代は,単位(義務),必修科目(嫌でもとる授業)に追われがちですが,皆さんの興味は<ほんたうに>そこにありますか? 義務を果たすのは重要なことですが,自分の「満足」を得られているかどうか,得るためには何をすれば良いか,(今後のキャリアにとってではなく,自分に)<ほんたうに>必要なことをやっている/やれているかどうか,ロデ氏の貴重な経験とお話を通して考えてみると面白いかも知れません.

 ロデさん,ほんとうに貴重な機会を有り難うございました!

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